欧博allbet韓国ユン大統領が戒厳令いったいなぜ?日本との関係は?「これはクーデター」神戸大学 木

このページではJavaScriptを使用しています。 戒厳令は“クーデター”?韓国でいったい何が?12月5日 15時17分

戒厳令は“クーデター”?韓国でいったい何が?

「今回の戒厳令宣布は実質的に上からのクーデター、大統領自身によるクーデターだと見なしていいと思います」

ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領による「非常戒厳」の発表について、こう話すのは韓国政治に詳しい神戸大学の木村幹教授です。

1987年の民主化後、初めてとなる「戒厳令」はなぜ出されたのか。ユン大統領は今後、どうなるのか。改善が進んだ日韓関係は?木村教授に詳しく聞きました。
(国際部記者 吉塚美然)

※以下、木村教授の話(インタビューは12月4日に行いました)

民主化後初の戒厳令 どう見た?

韓国の関係者から連絡をもらって(戒厳令の発表を)知ったのですが、正直言って「うそだろ?」というのが率直な感想でした。

1970年代や80年代初頭ならともかく、それから40年以上もたった現在において、大統領が戒厳令を宣布するということが本当にありうるのか、夢でも見てるのではないかと思いました。

韓国の大統領が持っている戒厳令を出す権利というのは、1987年に韓国が民主化したときに残ってしまった、権威主義体制期、軍事政権期の遺産です。

ただ、誰もそれをまた使う人物がいるとは考えたこともなかったという意味では、時代錯誤的であると同時に、韓国がこれまで見逃してきた宿題が残っていたことを示しているのではないかと思います。

なぜこのタイミングで戒厳令?

私自身も「まさか戒厳令が」というふうに思ったので、ユン大統領の心の内はなかなか分からない部分もあります。

ただ、最初の「非常戒厳」を宣布したときの会見を見ると、ユン大統領は本当に自分の権力が脅かされていて、さらにそれは韓国の政治体制に対して大きな脅威だというふうに考えている。

野党の攻撃の背後には北朝鮮がいて、これで自分が屈服してしまうと大韓民国そのものが北朝鮮の影響下に入ってしまうぐらいの危機感。単に自分の大統領任期を延ばしたいなどというだけではなくて、そういう危機感を実際に持っていたというのは事実なんだろうと思います。

ユン大統領 そんなに追い込まれていた?

ユン大統領は2022年5月に就任したわけですが、当時から国会は少数与党状態でした。

ユン大統領が日韓関係をはじめとする外交に力を注いできたのも、国会を野党に握られているので、外交以外のところではポイントが稼げないというのがあって外交を頑張っていたところもあるわけです。

韓国で4月に国会議員選挙があり、ここで与党が多数を取れていれば、状況はずいぶん変わっていたと思いますが、与党は惨敗を喫することになりました。

大統領からすると、任期の最初から最後まで圧倒的な少数与党状態で過ごさないといけない、それに加えて、韓国の経済状態も決してよくはありません。

経済状態は上がっていかない、肝心の外交もトランプ政権の誕生でだんだんと見通しが暗くなってきている。

さらに、キム・ゴニ(金建希)夫人のスキャンダルを筆頭とする政権に対する様々な批判も出てきて、支持率は20%前後まで下がってしまっていました。

そうすると、大統領としては全く展望が開けないわけで、国会が本当に敵に回ってしまうと、もうにっちもさっちもいかない。与党の党首も大統領と距離を置いている。

そして、最後に打った手が、今回の、物理的な力に訴えるという、ある意味では最悪の選択だったということになります。

これまでも戒厳令出されたことはあった?

戒厳令というのは、基本的に憲法を一時的に停止して、大統領もしくは大統領が指名する戒厳司令官の下に行政および司法の権限を集中させるという非常措置です。

過去には1970年代に当時のパク・チョンヒ(朴正煕)大統領が、今回のユン大統領と同じように、大統領みずから戒厳令を宣布して、憲法を停止させた上で憲法を改正するということをやっています。

1980年には当時まだ大統領ではなかったチョン・ドゥファン(全斗煥)の指導の下、戒厳令が宣布されて、やはり国会が閉鎖され、政治活動が禁止され、後のチョン・ドゥファン体制になっていくと。

そういう意味では、戒厳令というのは単に憲法を停止するというわけではなくて、韓国的には次の政権、次の体制へのステップとして使われてきたということも忘れてはいけないと思います。

なぜ国会に軍隊派遣?

これは理由は簡単で、韓国の憲法において、戒厳令というのは戒厳令を宣布した後、国会に遅滞なく通報し、その国会の許可を得ないといけない。逆に国会が今回実際に行われたように、戒厳令を否定したら戒厳令は解除されてしまうという規定があります。

現在、韓国の国会は野党の多数状態にあり、与党も大統領から距離を置いているとなってくると、国会を開かれてしまうと戒厳令を宣布した意味がないわけです。

そうすると、方法は1つしかなく、国会の活動の停止、力を使って国会の停止を実現する。これ自体おそらく憲法違反なんですが、そういうことを実現しようと思った。

そのためにまずは警察、そして軍を国会に派遣し、物理的に国会を開催させないようにしようと試みたと。

1980年5月17日、チョン・ドゥファンが軍事クーデターで79年の12月に次ぐ2回目の軍事クーデターを行ったときも、やはり国会を封鎖しています。

国会は大統領の権力の暴走を止めるための法的権限を持っていますから、これが動いてもらうと困る。それを止めたかった。

逆に言えば、そこを止められなかったところこそが、今回の戒厳令宣布というか、実質的に上からのクーデター、大統領自身によるクーデターだと見なしていいと思いますが、その成否を分けることになったと思います。

国会封鎖“失敗” どう見る?

ユン大統領が今回、戒厳令を宣布するに至った背景には、軍の一部、特に国防部長官と陸軍参謀総長の支持があったことは明らかです。

ただ同時に、国会の封鎖をめぐる状況で軍の実際の動きが示したのは、そのような軍の一部の強硬派の意見に、兵士たち、より下位の指揮官たちはまったく同調していなかったということがよくわかるわけです。

そういう意味では、大統領が単に浮き上がっていただけではなくて、軍の首脳部も浮き上がっていた。

その一方で、兵士たちがちゃんと民主主義を守ろうとしたという言い方もできるわけですが、軍のガバナンス、政府のガバナンスとしては大きな問題です。

これをどういうふうに考えたらいいのか、グッドニュースなのか、バッドニュースなのか、北朝鮮の問題がさらに激化した場合に軍はちゃんと動けるのかというようなことも同時に考えさせられる展開だったと思います。

ユン大統領 止める人いなかった?

現在の韓国の大統領府は、結局、大統領が自らの意見を通すあまりに側近たちの影響力も失われてしまって、周囲にイエスマンしか残らないという状態になっています。

そうすると、大統領が信じたくない考え方は上がっていかないですし、大統領が信じたい話をみんなするという状況になってしまう。

そういう意味では、韓国社会の中でヨンサン(龍山)にある大統領府、大統領そのものが現実から乖離したような形で浮き上がっているという状態があるんだろうと思います。だからこそ大統領が考えた認識が現実とずれてしまう。

戒厳令を宣布した段階では、大統領は間違いなく軍隊は自分の言う通りに動いてくれると思ったに違いありません。そうでなければ戒厳令の宣布はできません。

ですが、実際には国会の封鎖の現場を見ても明らかな通り、国会の封鎖すらできない、やってくれないわけです。

もっと言えば、それを建議したのが国防相であり、戒厳司令官という大統領の次のポストに座ったのは陸軍参謀総長だったわけです。

彼らがどの程度まで本当に大統領が戒厳令を宣布すると思っていたのか、「戒厳令の宣布」というような威勢のいいことを言えば大統領が喜ぶのではないか、それぐらいの感じで始まってしまったのかもしれないなと。

社会の中から浮き上がってしまった巨大な権力を持っている大統領の怖さというのが今回、本当に象徴的に出たんだと思います。

ユン大統領弾劾? 今後どうなる?

日本のような議院内閣制の首相の不信任と違って、大統領の弾劾というのは、韓国のみならず、アメリカをはじめとする多くの国で「重大な大統領の違法行為」を前提とします。

この証明が実は意外と大変でパク・クネ(朴槿恵)政権のときももめたわけですが、今回に関しては、ユン大統領の行為自体が、戒厳令を追認する権限、あるいは否定する権限を持っている国会を開催させないようにしたという、重大な憲法違反が含まれていることは明らかです。

北朝鮮に近い勢力を徹底的に除去するというようなことも言っていたわけですから、大統領自身が内乱陰謀罪といったような非常に重い罪に問われてもおかしくない状態になっています。

日韓関係にも悪影響?

日韓関係に関しては、歴史認識問題、とりわけ元徴用工問題で大きな譲歩をし、解決策を引っ張ってきたのはユン大統領自身です。

この政権が恐らく最悪の状態で終わります。もっと言えば、ユン大統領がやってきた政策というのは、誰も引き継ぎたくないという状況が、野党のみならず与党の中にも生まれると思います。

その中で、世論的に大きな効果を持ってるわけではないですが、不人気な政策のうちの1つが、日本に対する歴史認識問題での譲歩だったわけです。

そうすると、野党が政権をとった場合はもちろん、与党が政権を維持できた場合ですら、かなりの確率でこの部分での見直しが行われるというふうに考えるべきだと思います。

「佐渡島の金山」の問題もすでに大きな問題になっているわけですが、ますます歴史認識問題をめぐる日韓間の協力が難しくなるだろうなと、そういう意味では日本の外交にも難しい局面が生まれてくるかもしれません。

韓国政治 どこに向かう?

ユン大統領が弾劾される以前に、この政権を支えてくれる人材が本当にいるのかどうかという問題もありますから、場合によっては弾劾の前に大統領自身が辞任に追い込まれる可能性も大きくなっていると思います。

さらに今回のケースで見落としてはならないのは、たとえ少数であろうと軍隊が動いたということです。

クーデター未遂とも言える今回の事件に関して、国防部長官が建議を行い、陸軍参謀総長が協力する、戒厳司令官の地位に就いたということの意味はものすごく大きく、軍に対する不信感というのも生まれるだろうと思います。

保守勢力が大きく失墜し、軍に対する不信感も高まっていく。ただ、次の大統領選挙がどうなるのかは、野党は野党でスキャンダルを抱えています。

そうすると、誰が大統領になってもこんなことばかり続いていくのかというような不安感を、韓国国民は持たざるを得ないでしょう。そうなってくると、韓国の今後の安定性というのはやはり、危惧せざるを得ない状況に入っていくと思います。

民主化後初の戒厳令 何が言える?

もちろん、次の政権がどうなるかという問題もあるわけですが、やはり1987年の民主化から37年たった韓国の民主主義が依然として問題を抱えているということは明らかです。

もう1つ重要なのは、最初の記者会見でユン大統領が話した内容は、ある種の典型的な陰謀論、現在の韓国の右派の陰謀論のステレオタイプのような話だったわけです。

単なる左右の対立だけではなく、右の端の人物が大統領に座り、その人物によって軍隊が動かされる。左右の分断が進んでいますから、今度は左側の方もだんだん極端になっていくわけです。

そうすると話し合いができなくなって、まさに今回の事件が示したように、民主主義が機能しなくなってくる。場合によっては力で、右側は軍隊で、左側はデモで事態を打開しようとすることだって出てこないとは限りません。

今まで成功しているように見えた韓国の民主主義がどの程度まで安定しているのかということが問われる状態になっています。

アメリカの議会襲撃事件がかわいく見えるぐらいのことが隣の国で起こっているというのは、やはり深刻な問題だと思います。

ユン大統領がやりたかったことは?

ユン大統領が起こそうとしたことは、単なる政権維持のための施策だとは思いません。

北朝鮮の影響力を受けている左派を除去し、大韓民国を守るんだと言ったユン大統領の言葉は、彼の中では真実だったんだろうと思います。

実際の事件の展開を見ても、1972年のパク・チョンヒ政権により新体制の樹立や、1980年5月17日のチョン・ドゥファン政権のクーデターを参考にしていることは明らかです。

完全な未遂に終わりましたし、空回りに終わりましたが、彼が行おうとしたのは単なるクーデターではなくて、ある種の革命だったんだと思います。

革命によって彼は韓国を作り直そう、立て直そうとしたものの、その理想というのは現在の状況から考えるとかなり時代錯誤的で、周囲の人は誰もついてこなかった。

大統領自身もあれほど力を込めて宣布した「非常戒厳」を朝にあっさり諦めてしまうというのは、多分夢から覚めたような状態なんでしょう。

そういう意味で、大統領がしたかったこと、大統領の認識がいかに現実からかい離していたかということを典型的に示しているんだろうと思います。

(12月4日ニュース7、ニュースウオッチ9で放送)

国際部記者
吉塚 美然
2019年入局 初任地の福井局を経て2023年8月から現所属
福井局では拉致問題 現在は朝鮮半島を中心に軍事・安全保障分野を取材

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2025-02-24 02:23 点击量:1